会長挨拶

          会長就任に際してのご挨拶

  2021年度の研究大会に際して開催された総会にて本学会会長に就任いたしました。副会長の中山京子先生(学会誌編集委員長)と本多千明先生(事務局長)に助けていただきながら、責務を全うしたいと思いますので、会員の皆様のご理解とご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

簡単に自己紹介をしますと1987年に広島大学大学院文学研究科を単位取得退学後、広島大学附属中・高等学校で教諭として勤務し、1995年より広島経済大学で社会科・地理歴史科教育法等を担当しています。専門分野は世界史教育ですが、現在は日系移民史について現地(主にハワイ島)で調査して教材開発を行っています。

「移民」や「日系人」を「南米や東南アジアなどから日本へ働くために移住して来る人たちである」という認識を持つ今の日本の子どもたちに対して、明治から昭和の時期に日本から南北アメリカ大陸やハワイ、東・東南アジアなどへの移民した人たちの歴史を教える意義はどのようなものでしょうか。移民たちはホスト社会において異文化に接してそのギャップに戸惑い、ホスト社会からの差別や排除を経験して苦しんできました。戦争や経済的不況などの困難な場面では、その苦しみは拡幅されました。それは、現在、新型コロナウイルス感染拡大という未曾有の困難な状況の中で、他国に移り住んでいる人々やその子孫の人々にも起こり得ることであり、移民の歴史を知った上で、現在の移民について正しい理解を進めることは、グローバル教育上の課題と言えるでしょう。

また、この新型コロナウイルスの世界的な感染流行、つまりパンデミックは、改めて、グローバル教育の必要性を痛感することに繋がりました。歴史的な教材でいえば、100年前の1918~19年の「スペイン風邪」によるパンデミックがあります。この時は、全世界で死者は約5000万人とも言われましたが、その流行は第3波までであり、おおよそ2年で収束しています。ウイルスの種類は違いますが、現在の方が免疫学は発達し、医療技術もあり、また、ワクチンや治療薬も開発されたのにもかかわらず、現時点(2022年1月)で流行は第6波にも及び、流行の始まりから2年ほど経っていますが、収束の目途が立っていません。これは、100年前と比べて、社会経済のグローバル化が格段に進み、人々の移動量が断然大きいためであると考えられます。人の移動量に注目して両者を比較すれば、移動制限や水際対策が最も流行を防ぐ最も良い手段であることは明らかです。

近年、グローバル・ヒストリー研究の重要性が主張され、病気も大きなテーマとされおり、移民と同様にグローバル教育上の重要な課題の一つでしょう。グローバル教育は、文字通り、国境を越えた地球レベルでの事象について、子どもたちに考察させて理解させるものです。本学会会員の皆様には、そのための理論研究に加え、実践研究を積極的に進めていただくことを望みたいと思います。

日本グローバル教育学会会長   田中泉(広島経済大学)